最初の関数はこれです。いかにもシンプルですね。小判の積み立ての話のときにも扱いました。グラフに書けば、右肩上がりの一直線になります。単項式の積分公式を使って積分すると原始関数との関係は、
で表せます。下は区間をとって定積分にした場合です。区分求積と対応するのはこれになりますので、元の式から区分求積でここまで行き着ければ、ミッション成功です。
では始めますが、その前にひとつ準備することがあります。この計算では、次のシグマの計算公式を使うので、それをあらかじめ確認しておきます。
詳しくは後で取り上げますが、先に簡単に説明しておくと、まず(1)は、1 からひとつづつ整数を足していった和で、等差数列の和の公式で、初項と等差を 1 に揃えれば導けます。
(2)は、定数項 c を n ケ足した場合、(3)は2つの数列を、それぞれの項で足したものと全体の和を足したものは同じという意味で、(4)はそれを同じ数列で繰り返した場合です。それぞれシグマの中身を項に分解したり、係数を掛けて掛け算したりするときに使えます。
それでは例題の関数を、作成した虎の子の区分求積の基本式に入れてみましょう。上の公式からシグマの中身は項に分けられますので、まず後半部分を部品として先に計算しておきます。
なにやらいい感じになりましたね。上の等差数列の公式を使って、シグマの部分を置き換え、シグマを外すところをよく確認してください。分割回数の n が極限をとったときの消え方にも深い味わいがあります。n が自乗の形で2回掛けられているのは、式の作りから、等差数列においても区分求積の側においても、面積計算のタテ×ヨコのそれぞれの要素に入りこんでいるからですが、分割回数を無限大に引き上げることで、これがちょうど相殺されるような形で収束していくのです。
この部品を戻して、あらためて全体を計算します。
下線の部分が上の部品になりますので、これで置き換えてリミットを外します。
これでひと通り完成です。積分をまったく使わずに、シグマの数列の和と極限だけを使って、定積分とぴったり同じところまで行き着きました。これで小判の積み立ての例であった乖離が完全に埋まったことになります。また、a を(たとえば原点0に)固定して b を変数としてスライドすれば、原始関数が取り出せます。
たいへん素晴らしいですが、一方で手間としてはえらい大変です。こんな簡単な関数でさえ、上のシグマの計算公式を全部ぶち込んで、切った張ったの大捕り物になってます。積分がない時代、原始関数というヘリコプターでズルをしていきなり山頂に行けなかった頃には、いちいちこういう計算を慎重に調合して、ほんとうに和が取れるのか、極限が収束するのか、ハラハラしながら、下から一歩一歩積み上げて登っていったのです。
ところで以上の計算から、数列と積分という視点で分かることが2つあります。
ひとつは、区分求積の実態は数列の和・級数ですから、その計算を実際に行うには、このようにシグマの計算を使いこなす必要があるということです。もっとも簡単な一次式の場合でさえそうで、それなしでは先に進みません。
もう一つは、積分の計算公式で特徴的だった「1/2」という係数の計算上の出どころです。上の計算から、これが数列の和の公式(この場合は等差数列)に求められることが分かります。この係数は、積分の単項式の公式を作ったときには、基本原理を先回りして使って、微分の公式を逆転させる形で外から引き出しましたが、区分求積で中から膨らませるときの起源を、これでつきとめたことになります。
この点が、この後取り上げる体積の計算と、積分の基本を扱ったこの節全体も貫く大きなテーマになってきますので、ちょっと頭にとめておいてください。
では次は放物線の二次関数で同じ計算をやってみましょう。これも基本的な関数で、次数を一つ上げるだけですが、計算はさらに大がかりになって、いよいよ手に負えなくなってきます。