まず、「定積分=区分求積」で元関数 f(x) の累積変化量を S(x) とします。区分求積を定積分の表記を作って置き換えたばかりの「積分の子ども時代」まで話を巻き戻すと、この S(x) がどんな存在であるかは、この段階ではまだわれわれには分かりません。ですが、前回までの区分求積の考え方から、上の定積分の差の式自体は、その知識なしに、直接導くことができるでしょう。
そこからさらに先に進むために、この定積分の下端(始点)の a を固定し、上端の b の方は逆に可変として前後に自由にスライドするということをやってみます。
すると、累積変化量=面積の S(x) は、b の値に応じて自分も変化しますから、これは「bの関数」といえます。
そこで、上端 b を変数(variable)らしく x に換えて、関数 f(x) の中身の方は x と a を両方とれるように、別の文字で仮に置き換えてやります。すると上の式は、
と書き直せます。これが前回紹介した基本定理で書かれている定積分の式の意味です。さらにこの式の右辺を微分すると、後の項は定数項なので脱落して、
また、この S'(x) は前回の内容から、
であり、微分すると f(x) に戻る関数でもありますから、以上の話を全部つなげると、
となるわけです。これは、区分求積=定積分の区間をどう取ったとしても、微分することで元の被積分関数に回帰していくことを示しています。
ここで、この S(x) は区間のとり方に関係なく定積分の土台になる関数なので、これを「原始関数(primitive function)」と名づけ、微分の操作を逆流して、区間の別なくその関数自体をはじき出す計算を「不定積分」と呼ぶことにしたのです。
前回述べたように、微分との関係を示す基本定理と、この不定積分があれば、区分求積から定積分を導く中間の操作をバイパスして、(不定積分の差として)逆側から定積分を容易に作り出すことができます。
つまり、この場所では、ここまで積分をおおむね次の順序で勉強してきましたが、
積分が発展してきた実際の時系列は、これとちょうど逆で、
のような順序で、肉づけされてきたことになります。定積分から区間の表記を取り去った、よりシンプルな姿の不定積分・原始関数は、最初に取り上げた時には、ただそう名前をつけただけだよ、と軽く通りすぎてしまいましたが、ほんとうは積分の基本が確立する過程の最後にくる、非常に高級な、ありがたい存在だったのですね。お見それしました。
積分の教科書では、この(1)で書かれたものと(2)で書かれたものの両方があります。(2)の方は、実際の発展の時系列に則していて、内容が順調に消化できさえすれば、積分という大発明について、当時のたいへんな感動をそのまま味わえますが、いちばんの問題は、しょっぱなでいきなり区分求積の計算(数列・級数の計算を使いこなす必要があり、この後扱います)というエベレストのような断崖絶壁を登り切ってその向こう側にいく必要があることで、数学がニガテな生徒は、まず九割九分、積分の本体までたどりつく前に、そこで力尽きて門前払いになってしまいます。というわけでここでは、時系列とは逆になりますが(1)の方を採用し、まず面積計算など積分の意義を知り、ある程度の基礎知識で体力も蓄えたうえで、険しい坂にはその後で挑戦する、という段取りにした次第です。
では、以上の話も踏まえて、次回からは、その区分求積の計算を実際にやっていきます。具体的な事例において、記号を書き換えた定積分を経由して上の原始関数にまで至る、基本定理の、微分と裏表になる関係がほんとうに取り出せるでしょうか?