先の話を再確認すると、上の式で、上限と下限の壁を作り、上限の固定値に下限の値がとこまでも近づいていくことで、間に挟まれているターゲットの値も、それ自体を直接調べることなく自動的に求まる、というのが仕掛けでした。
このように、不等式で挟み込んで間接的な形で極限値を求める手法を「はさみうちの定理(原理)」といいます。ある式の極限値の、そのものずばりを求めるのが難しいときによく使われる手法で、ここまでみてきた中でも、(壁は固定ではありませんが)無理数の指数を定義したときにも同じ発想をしていますし、あるいは、多角形の近似値として円周率を求めたときにも、内接円・外接円として両側から多角形を近づけていけば、同じ考え方になります。
英語では同じ手法は、「squeeze theorem」「sandwich theorem」などの呼び名になっています。「squeeze」は「ぎゅっと搾る」「抱き締める」などの意で、「サンドイッチ」は、見た目そのままですね。
また、Wikipediaの該当の項には、次のような、ちょっと楽しい記述もあります。
イタリアやロシアでは、「二人の警察官の定理」として知られ、次のようなたとえ話と共に紹介される。囚人が二人の警察官に挟まれているとすれば、二人の警察官が部屋に入るときには、囚人も必然的にその部屋に入ることになる。
検索すると、この箇所が印象に残っている人が多いようで、よく引用されています。英語版では「two policemen and a drunk theorem (二人の警察官と酔っぱらいの定理)」です。二人の警官に両側をガッチリかためられて、すごすごと決められた部屋に連れていかれる収監者の姿が目に浮かぶような、一度聞いたら忘れられない表現です。
自分自身が警察官のように杓子定規に行動できないのであれば、そういう不埒な輩は、周りを取り囲んで有無を言わさずそうさせる、そうなるように仕組む、という点で、ある意味、数学の考え方の本質に触れているようなところもあるかもしれません。