上の羃乗関数の微分は、指数を最初の自然数からはじまって、ゼロと負の数を加えた整数にまで拡張してきました。ここではそれを、有理数(分数)、無理数まで加えた実数全体にまで拡張したらどうなるか、ということをやってみます。つまり、この指数が、はじめに頭出ししたルート2の無理数の指数のような場合です。
この関数で、指数は整数以外のところまではみ出していますので、底に条件をはめます。また、整数ではないので、ここでもやはり二項定理は使えません。そこで、一計を案じて、いっそのこと、この式全体を指数のレベルに変えてしまい、対数の式として扱う、という策を考えてみます。これはすなわち、対数のところで扱った「対数をとる」というテクニックで、指数が無理数まで含めて滑らかに動くので、指数の専用ツールである対数公式で扱った方が取りまわしやすいだろう、というもくろみによるものです。
そこで、元の式について両辺の対数をとって、上のように対数の式に変え、この対数関数のアウトプット(ナマの指数)を別の文字を使ってたとえば t とします。対数の底は、微分ですので、男(?)は黙って自然対数です。
この対数の式で、上の(1)と(2)を、それぞれ y、x について、公式どおり微分します。
そして、この部品を、合成関数の公式に放り込んでやります。
あとは、式を整理してやれば、合成関数の公式の機能から、目当ての元関数の微分「dy/dx」が出てくる、というわけす。
なにをやったか、ちょっと難しかったでしょうか。最初の絵図をもう一度繰り返すと、二項定理を使って直接計算できないので、いったん対数(指数)のレベルに迂回して、合成関数を使って外側から追い込んで求める、というやり方を取ったのです。
こんなふうに、指数のからんだ式の微分では、対数をとって対数の式に変えることで、突破できる場合がよくあり、これを対数微分法といいます。対数も微分も、ひとつだけでも厄介なのに、両刀使いで(しかも合成関数まで)駆使することになるので、かなりハードルが高い感じですが、原理は、対数のところでみたものと同じで、対数のレベルに変換した方が取り回しがしやすいので、そうしましょう、というだけのものです。また、微分では、底を自然対数にすることで、計算式が圧倒的に簡単になりますので、この対数微分法のからみでは、(単に「対数をとる」だけでなく))「両辺の自然対数をとる」という表現が定番で使われることになります。
それから、例題に使った式の導関数をみると、最初から扱ってきた羃乗関数の微分の公式が、指数を実数全体に拡張した場合でも、そのまま維持されていて、適用可能である、という驚くべき結果になっていることが分かります。つまり、この公式は、指数が小数・分数でも、無理数であってさえも、使えるのです。これについては、次回でさらに確認しましょう。