ネイピア数の定義の回で用いた、途中の式をもう一度みましょう。ここで式の(※)の部分がネイピア数になるんだよ、ということで、先に進みましたが、その際そもそも元になっていたのは、数列の無限数列をベースにした極限の計算でした。
無限数列を作る数列の項は、常に正の整数、自然数ですので、それを逆数にとった上の m も正の値ということになります。
しかし、この指数関数の微分の計算では、真数条件のところでみたように、m は −1 までの範囲で負の値もとれますので、プラスの値をとりながら 0 に近づいていく向きの他に、マイナスの側から 0 に近づけることも可能です。そして、このときに、上の(※)の部分が、ほんとうにネイピア数の「2.718...」に収束するかどうかは、まだ必ずしも自明ではありません。詰めの甘いところというのは、この点です。
そこで、この計算を実際にやって、前回のものと比べてみましょう。 m をプラスの側からと、マイナスの側から、それぞれ 0 に近づけてみます。
WolframAlpha でさらに深いところまで計算して、ネイピア数「e」と比べてみます。
どうやら、プラスの側から 0 に近づけたとき同様、ネイピア数に収束するとみてよさそうですね。
また、ここまでくれば、上記の計算から、同じことを数式で検証することも可能になります。以前確認したように、ネイピア数の定義の式で、カッコの中の符合を変えて、「1より小さい数」で計算したときには、e の逆数になりますが、ここで指数の符合をもう一回反転させて、逆数の逆数にすれば、元の e に戻るからです。
極限と収束を考えるときには、このようにターゲットより大きな値(数直線でみたときの右側)から近づける操作と、小さな値(〃左側)から近づける操作を、それぞれ分けて点検する方がよい場合がよくあります。これを「右極限」「左極限」といい、明示するときには、それぞれ以下のように記述します(「0」がつかないパターンもあります)。
上記の例では、右と左はたまたま同じでしたが、値が異なるケースもあります。たとえば、微分と接線の項でみた、先がカクっと折れているような関数では、尖っている先の箇所では、右から寄せたときと左からでは、値が違うでしょう。
ここからも分かるように、この「右極限」「左極限」の考え方は、極限と微分を扱うときに重要で、もっと念入りに分析する必要がありますが、これも今後の宿題のひとつとしておきます。ここではそういう考え方があるということで、用語と事例の紹介にとどめ、先に進みます。