指数関数の微分で出てきた、上記の途中の式にもう一度戻りましょう。先に扱った際には、既に数列のところで習ったネイピア数を使ってその先に進みましたが、今仮に、われわれがそういう結構なものをまったく知らない、何世紀か前の昔の数学者だとして、指数関数の微分をあれこれ捏ねくりまわしてここまで迷い込んだものの、そこから先に進めなくてどうしたものやら悩んでいるものとします。
このとき、この式とじーっと睨めっくらしていてわれれれが気づくのは、上式の(※)の部分が極限のリミットの機能によって、仮にある一定の値に収束し、しかも、対数の底 a をその収束値とまったく同じにとれば、前半の分数の部分は、1 になって消えてしまうので、元の指数関数とまったく同じ導関数が作れる、ということです。
そこで、この部分を取り出して実際に計算してみると、幸いなことに、発散しないで固定値に収束することが確認できます。
この値は、「2.718...」という、なんとも座りの悪い奇妙な値ですが、それでも微分法にとっては大きな意味のある、特別な値です。よって、これに専用の名前をつけて、ストックしておこう、という発想は、自然に出てきます。
このように、指数関数の微分のルートを通してネイピア数にたどりつき、それを定義したのが、ネイピア数の略号「e」の元になった数学者のオイラーです。
また、この式をさらに元まで遡ると、
でしたから、上の式は、
となるような、底 a をネイピア数と定義する、と言い換えることもできます。すなわち、
です。
ここまで、自然対数の底、ネイピア数については、金利計算の連続複利を使った説明、それから、 対数の基本原理を使った説明の、二つの切り口からみてきましたが、これは、微分を使った定義、ということになります。
どちらかといえば遠回しで「隔靴掻痒」の観もあった先の二つに比べると、この微分を使った定義は、シンプルかつそのものずばりで数学的に美しく、しかもネイピア数の数学上の重要性が、雷で打たれたように一発で分かる、たいへん優れた定義ですが、一点困るのは、「微分」を押さえたうえでないとその意味が充分伝わらないことです。それなしには、この形の関数の計算で、微分という操作をやると、初めの形とまったく同じになるんだよ、どうです、すごいでしょう、と言っても、へーそうですか、でもそれがなんなのさ、という感想になってしまうのは致し方ありません。数学が苦手な人は微分自体の敷居が高いので、「自然対数ってなに?」と聞かれたときに、この説明は残念ながら使えない、ということになります。ですが、そこさえクリアされていれば、ネイピア数の意義を説明するうえで、この定義はもっとも簡単で、優れたものといえると思います。