ターゲットの関数は上記です。ここでは、とりあえず指数の n は正の整数、自然数としておきます。これを、同じように微分の定義式にはめ込んでやります。
すると、リミットの中の、分子の左側のパートは、前回も確認したように二項定理になっています。そこで、この部分だけを取り出して、中身を展開すると、二項係数を C(n) として、
このとき、まず、いちばん左の最初の項は、元の式の中で、元の関数で引き算される項で相殺されて消えます。次に左から2番目の項は、分母の h で約分されて h が取れます。そして、残りの3番目以降の項は、二項定理の剰余の分析でみた原理によって、分母の h で約分された後でも h を約数として含みますので、h でひとまとめに括ることができます。そこで、これを元の形に戻してやると、
となります。ここで、h を 0 に近づけて極限をとると、h で括ってある項は全体が 0 に近づきますので、結局、
となります。すなわち、
です。微分して導関数にすることによって、元式の次数がひとつ落ちるとともに、元の次数が前にせり出てきます。この値の計算上の起源は、二項係数(の左から2番目の値)です。
ここから分かるのは、微分と二項定理、二項係数の深い結びつきです。二項定理を勉強したときに、二項定理はいろいろなところで使われる基本的なテクニックで、とても重要ですよ、と述べましたが、二項定理が重要である理由の大きなひとつが、この微分との関わりです。二項定理の最初の項で、外観上の特徴として、左から2番目の項は、必ず元式の次数と同じになることを指摘しましたが、ここがそのまま導関数に現れることになります。
また、この節の最初に、自由落下運動で時間と距離の関係を観測した関係式を二階微分することで、重力加速度(1G)の定数が取り出されることをみてきましたが、そこでは、観測値で得られた係数が、重力加速度になると、ちょうど2倍になっていることが分かります。この2倍の「2」は、通過距離が時間の2乗に比例する落下の2次関数を微分したときに現れる係数の「2」です。
この数値の起源は、上記のように二項係数であり、さらにその元をたどると、商店街のくじ引を例に説明した、「組合せ」の計算にまで行き着きます。計算上の必然とはいえ、自然現象の中に、こうした思いもよらない関係が隠れて働いているのは、とても面白いですね。