座標平面上で動径を回す三角関数の関係について、まず次のことがいえます。角度はラジアンの弧度法で記述してあります。π がちょうど180°でしたね。
これは、動径をちょうど2π の360°分回転させると、元の位置に戻ってくるので、三角関数の値も変わらずに同じになるという意味です。2π を整数倍して何回転させても、もちろん同じです。
こんな按配で、もう少し細かく場合分けしてみていきます。はじめは、上のちょうど半分で、π の180度だけ半回転させた場合です。
この場合は、図の(b)になり、原点をはさんで反対側の象限に動径を倒した形になりますので、X,Y とも符合が反転して、
となります。では次は、元の角度をマイナス(負角)にして、動径を逆向きに回転させたらどうでしょうか。これは図で(c)になり、X軸をはさんで折り倒した位置になります。そこで符合は、Xはそのまま、Yだけが反転し、
です。今度は、このふたつを組み合わせてみます。つまり、(りゃんこでもいいですが)マイナス側に同じだけ回転させておいてから、向き直って正の向きに π だけ半回転分進めてやるのです。
この場合の符合は、まずマイナスに倒すことで、Yの符合が反転し、その状態のまま、π の分だけ原点の向かい側に飛ばしてXとYの符合をさらに反転させます。結果として、Yは2回反転してもとに戻り、Xの符合だけが変わることになります。図でいうと(c)を180度回した(a)で、計算式としては、元の角 θ に対して「補角(足して2直角)」になる角度、ということになります。
では、さらに進めて、今度はちょっと難しいですが、 1/4回転、すなわち「直角(90度)」だけ継ぎ足した場合はどうなるか。これを考えてみましょう。
まず、プラスマイナスの符合は横において、値だけ考えると、これは下図の(1)のように半身だけ起こすので、XとYの値を読み替えた形になります。ちょうど、モノグサな人がテレビを横倒しにして、寝ころがったまま横と縦を入れ替えて見ているような状態です。
次に符合ですが、半身だけ起こしたということは、Yの符合は変わらずに、Xだけが変わる形になります。なぜ変わるのがYではなくてXかというと、三角関数で動径が回転を始めるのが、図の(イ)のX軸のところからだからで、Xの値に比べてYの値は π/2(90度)ずれた(遅れた)形で、Xのあとを追いかけながら符合が変わっていくからです。これは、一般角の開きが鈍角など、動径が1〜4のどこの象限にあっても同じです(下の図でXとYの符合の動きを比べてください)
以上を合わせると、「π/2(90度)を足す」ときは、まずXとYの値を入れ替え、そのうえでXの符合を反転させるという動作になります。
今度は、これをまた負角の公式と合わせてやります。すると、まずYの値をマイナスに倒してから、1/4回転捻(ひね)りを足して上の動作を加えますので、上図の(2)になり、
となります。ところで、これは、三角比のときに足して直角になる角度の三角比の関係として確認した式と同じです。つまり、この式は三角関数に拡張して一般角としてそのまま使用しても問題ないことを示しています。これを「余角」の公式と呼んでいます。
これらの3つ「余角・補角・負角の公式」は、符合がプラスになったりマイナスになったりとくるくる変ってやっかいですが、次のように考えるとよいのではないかと思います。
まず、上の※1〜3の、元角を半回転、1/4回転させる(足す)パターンと、逆回転させる負角のパターンの3つを、動径の動きのイメージと合わせてしっかり理解しておきます。そのうえで、間の余角・補角公式は、この3つの組合せで理解する、という覚え方です。
以上の話からはまた、三角比が三角形という図形における角度の性質を扱うものだったのに対して、一般角に拡張された三角関数は、その三角形を定規に使って、「回転」の現象を記述し、扱うためのものであるという姿が、浮かび上がってきます。三角比のときは、三角形そのものの研究が目的でしたが、三角関数では三角形はどちらかといえば、道具・手段で、主眼は回転の数学的性質を理解することにあるのです。実用の中ではアナログ時計が端的にそうですが、もともと「角度」には、その2つの考え方が同居して含まれていますね。
それから、計算の部品として考えたとき、これらの関係式がステキなのは、三角関数の角度そのものの中に「足し引きの関係」が入っているところです。加法定理は、まさにこのように角度自体を足し引きする計算を行うものですので、ここをテコにして式を引きだします。では、いよいよ次からそれをみていきましょう。