前回はビネの公式のうち、無理数の部分が、分母分子で消えることを二項定理を使って確認しましたが、今回はさらに分母に残った「2のn乗」で分子が約分できるか、というところを検証していきます。ところで、ビネの公式で問題になるのは、結局この√5の値ですので、ここでは、この部分を穴ぼこで抜いて、逆にここにどんな値が入ったら、式の全体が整数になるのか、という反対側の視点から調べていくことにします。

この m は、整数に加え平方根などの無理数も含めた実数の値をとれるものとします。まず、上記の分子の式を取り出し、前後のユニットをそれぞれ α、β としましょう。

そのうえで、この全体を数列の項とみて、X(n) と置くと、この式は、以前フィボナッチ数列を扱ったときのテクニックを使って、以下のように分解できます。

これはすなわち、数列 X(n) の隣接三項漸化式ということです。また、この α、β の和と積は、それぞれ以下になりますので、

上の式をこれで置き換えて、

さて、ここで、上の式の「m^2−1」の部分が、t を2以上の整数として以下の値であるとき、この数列の値は、数学的帰納法の考え方を用いて 2のn乗を切り出せることが確認できます。

なぜかというと、まず前回の内容から、この数列の各項は m で割るとあとに整数が残ることは確認されています。さらに上式の右辺は偶数で、m は奇数の整数かその平方根になりますから、m 自身は2を約数には持ちません。従って、前2つの項を m で割った後の整数がさらに2のn乗で割り切れるとき、その残った整数を k とすると、2項はそれぞれ以下のように表せるはずです。

これを上の漸化式に入れてやると、

のようになります。これは前2つの項が m と2のn乗で割ったあとに整数が残るのであれば、3項目も同じになることを示しています。
このような条件に当てはまる m の値をいくつか計算してみると、たとえば以下のようなものがあります。

途中ごちゃごちゃしましたが、要は言いたいことは、ビネの公式以外にも、以下のような式が(無理数が消えて有理数になるだけでなく)整数になることになり、ビネ公式の√5は、そのうちのひとつだ、ということです。


また、t が 2 で m が √5 のビネの公式のときには、上の3項漸化式は以下になります。

これはすなわち、3項漸化式で3項めが前2項の単純な和になっていて、k がフィボナッチ数である、ということです(上の例で m が他の値の場合には、整数にはなりますがフィボナッチ数にはなりません)。
どうでしょうか。最後はちょっと二項定理からはみ出してしまいましたが、乗りかかった船でここまでやってみました。完全ではありませんでしたが、それでも二項定理を入り口にすることで、前回よりははるかに深い部分まで、計算式自体の中身を分析できたのではないかと思います。
二項定理の節は以上で終了です。