【数列】数学的帰納法の原理

「数学的帰納法」(mathematical induction)は、数列の漸化式の考え方を応用した証明方法です。数列と一緒に説明されることが多いので、最後にこれを確認して、この節をおわりにします。

この節を最初から読む
この節の目次にもどる

数学的帰納法

どういうものか

無限に項が続く無限数列を定義するやり方には、その規則性のエッセンスを取り出した一般項によって行うものと、最初の項を決め、あとは隣り合う項の「関係」だけをみて行う漸化式によるものの二通りがありました。無限の項のすべてを「定義」できるということは、ある原理がそのすべてについて成り立つことを「証明」しているのと同じですが、われわれが一般に「証明する」というときにイメージしている前者の一般項のタイプのやり方とは別に、後者の漸化式の考え方を使って、もっと簡単に同じことを証明してしまおう、というのが数学的帰納法です。

数学的帰納法は、おおまかにいえば、次のような手順を通して証明を行います。

  • 真偽を判定したいある仮定を提示する
    ―いちばん最初のケースで成り立つ
    ―ある一箇所を取り出したときに、前のケースで成り立つのであれば、
     次の隣のケースでも成り立つ
    ―ならば最初から最後まですべてのケースで仮定は成り立つ

この真ん中の部分が証明のコアになりますが、こんなふうに、全体のある一箇所だけを取り出して、その関係を確認するだけで、すべてのケースを証明したことになる、という点がポイントです。



ふだんも意識せずに同じ考え方を使っている

われわれは、数の問題を扱うときに、あまり意識せずにこの方法を使っていることが多くあります。今まで出てきた例でいうと、たとえば「6の累乗の1の位は必ず6になる」というのがそれです。このときわたしたちの頭の中では次のような順序で推論が働いています

  • 6の累乗の1の位は必ず6になる気がする(仮定)
    ―6の1乗の6は当然1の位は6である
    ―6の2乗は36で、1の位はやっぱり6である。そのあとはどこまで
     いっても同じことが続く
    ―ならば、すべての6の累乗の1の位は、たしかに必ず6である

この思考の運びは本質的に上のものと同じで、それを共有できるので、それが何万乗、何億乗になろうが、実際に計算しなくても、先までいって見てきたわけでなくても、この結論は正しい、とみんな納得できます。



ここまでで使用した例

ここまで数列の学習の中で取り上げた中でも、同様の論理をすでにいくつか使ってきています。たとえば「奇数の和は平方数になる」という例がそうです。

  • 奇数の和は平方数である(仮定)
    ―最初の奇数の 1 は 1 の2乗である
    ―n番目の奇数までの和がnの2乗であるなら、n+1番目までの
     奇数の和は、2n+1が足されるので、n+1の2乗である
    ―n番目までの奇数の和は、常にnの2乗になる

また、「ルートの入ったビネの公式は計算すると整数になる」ことを確認したケースでも、(漸化式が三項なので)ちょっと変形ですが、同じ考え方を使っています。

  • ルートの入ったビネの公式は計算すると必ず整数になる(仮定)
    ―n=1、n=2のとき、ビネの公式は 1 である
    ―n>=3のとき、ビネの公式は前の2項の和であり、前2項が
     整数なら整数である
    ―ルートの入ったビネの公式の計算結果は常に整数である

 

数学的帰納法のメリット

数学的帰納法のメリットは、無限数列を定義する際の、一般項に対する漸化式のメリットと同じです。つまり、より単純な計算式で、多くのケースの中の一箇所だけをつまみあげて確認するだけで完全な定義/証明ができるので、二重の意味でおおいに省力できるという点がそうです。

上のビネの公式の例によく表われていますが、このため、正面から力づくでぶつかると難しくてとても手が出せないようなテーマでも、はるかに簡単に、すっきりと論証が行えることがあります。


「ドミノ倒し」との比較

数学的帰納法は、よく遊戯のドミノ倒しに例えられます。はじめの駒を倒すと次の駒が倒れ、同じ調子で次々倒れていって、けっきょく全部の駒が倒れる様子が似ているからです。とはいえ、それが現実のドミノと違うのは、それが必ず倒れるドミノというところです。

ときおり、体育館などをいっぱいに使って、何日もかけて根をつめてドミノを並べて世界記録に挑戦した、などというニュースを目にすることがありますが(現在の世界記録は434万個だそうです)、現実のドミノ倒しがとても大変で、それだけ連続記録に価値があるのは、現実のドミノは、牌の形状や重さ、台面の状態などが均一であることを前提に、できるだけ均等にそれを並べていこうとしますが、実際にはそれらは微妙に違っているので、どうしても想定しない動きをする駒が出てきて、そこで流れが止まってしまうからです。

これに対して数学的帰納法を使った証明では、牌に「数列の項(自然数)」という、大きさと間隔が完璧に揃った仮想の駒を使用しますので、無限に延びた先でも必ず同じように倒れることがはじめから保証されています。

数学的帰納法がたった一箇所だけを確認するだけで無限の先までのすべてのパターンを証明できるのは、この自然数の数列という完全に均質なベルトコンベアの強力な機能をあらかじめ借りて、そのうえに回転寿司の寿司のようにいろいろな具を載せて運んでいるからです。

その点で数学的帰納法は「必ず倒れる(ことが保証されている)想像上の無限のドミノ」ということができ、いろいろな証明が簡単便利にできる非常に強力な方法になっています。


posted by oto-suu 12/11/25 | TrackBack(0) | 数列 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
<< 前のページ | TOP | 次のページ >>

この記事へのトラックバック
×

この広告は90日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。