【数列】自然対数の意味

前回書いたように、自然対数とネイピア数は、まだ出てきたての馴れ初めで、経験がほとんどないので正体もよく分かりませんが、それでも少しでも今後の足しになるように、分からないなりにもう少々食いさがってみることにします。

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「自然対数の底=ネイピア数」を表す式は上記でしたが、この式を読み込んで文章の言葉でおおざっぱに書くと、「”1”にほんのちょっぴりの数を足して、それを繰り返し累乗すると、ネイピア数ができる」 と書けます。

ネイピア数の意味

こんなふうに「1」を起点に「割っておいて累乗する」、という「カニ挟み」みたいな格好で作られているところがネイピア数の製法上のユニークな特徴です。


対数の起源

これを頭にとめながら、ここでもう一度 対数の起源 にさかのぼって振り返ってみることにします。

対数のところで勉強したように、もともと対数の発想は、電子計算機のない時代に、掛け算の計算を足し算に置き換えて簡単にできないか、というところにありました。

対数の起源

指数と真数を対応させた一覧表を作っておいて、指数を足した先を見合わせることで、真数の掛け算をせずに、結果だけを知るというのが原理です(これを道具化したものが「計算尺」です)。

この「掛け算(等比数列)を足し算(等差数列)と対応させる」アイディア自体は、ネイピアが対数を考案するずっと以前から知られていましたが、当時はまだ指数を拡張して「小数の指数」にする、という斬新なブレークスルーがなかったので、指数をかけた真数はどうしても上図のように(最も小さな「2」をとったとしても)飛び飛びになってしまい、実用にはあまり適さず、計算遊びのレベルにとどまっていたそうです。

そこでネイピアが考えたのは、指数の方はとりあえずそのままであっても、「底」の側を「1からほんのちょっぴりだけずれた数」にすれば、それを累乗した真数も、もっとみっちりと密に並んで、この原理が実用に耐えるものになるのではないか、ということでした。ネイピアはその計算をするのに、底に「1から10の7乗分の1だけずれた数」を使いました。ネイピアが実際に使ったのは10の7乗分の1だけ「小さい(マイナス)」の数ですが、ここでは話を簡単にするために同じだけ「大きい(プラス)」の数で計算してみます。

対数の起源

これはたいへん画期的なアイディアで、これではじめて対数の基本原理から実際の用途に使える掛け算と足し算の対応表が作れるようになりました。この表でも、最初の2の底のものと同じように、指数の足し算と真数の掛け算の対応関係は立派に成立しています(電卓で確認してみてください)。

しかしながら、当時急速に発達しはじめた天文学と遠洋航海における需要から、大きな桁の掛け算をする労力は洒落にならないほどのものに膨れ上がっていたため、対応表の精度はすぐにこれでも追いつかなくなってきました。そこでさらに考えられたのが、だったら今度は底だけでなく累乗する「指数」の側も同じようにちいちゃく、縮めてしまえばいいじゃないか、ということで、これが「小数の指数」の考え方のはじまりです。対応表の精度は、これで文字通り桁違いに向上し、多くの研究家が競って対数表を作るようになって、対数の研究が飛躍的に進んでいきました。

対数の起源

ところで、こうして順を追ってバージョンアップしてきた計算の型を、式で書いてみると、まず、ただの整数だった底の側を 「1+微小な数」 に変えることで、


次に、指数についても同じように小さく取ることにして、この縮小した指数を x' とおくと、指数を指数法則で分解することで、すぐ上の式は以下のように変形できます。


ここで、カギかっこの中の (A) の部分は、指数と真数の出入りとは独立していますから、これをパッケージに括って共通部品化することにし、k をじゅうぶんに大きくとってあらかじめ精密に計算しておけば、この計算はきわめて単純な構成に置き換えられます。すなわちこの新しく括った底がネイピア数で、これをさらに換装すると、


となります。上の考え方をあらかじめ折り込んで、念入りに作り込み、磨き込んだこのパッケージは、そこに微細な指数を当てることで真数を精密に狙い撃ちし、制御できる、貴重で強力な部品です。

ここからみえてくるのは、掛け算と足し算を対応させる対数の基本原理をできるだけ精密な形で実現しようと追求していくと、計算の目を細かく、緻密で滑らかにしていった先に、ある決まった定数が現れてくる、ということです。また、ネイピアが最初の対数を作り上げようとしたその模索の中に、のちに自分の名で呼ばれることになるその定数が、既に潜在的な形で身を潜めていて、ネイピア自身も、もうあと一歩のところまで来ていたこともうかがえます。


金利計算との関係

また、ここから金利計算との必然的な結びつきも明らかになってきます。金利計算で複利の計算をするときには、ここまで何度もやってきたように、(元本を表す)「1」とのセットで行うのがふつうです。たとえば 3% の金利であれば、「1+0.03」というのが基本のセットになります。そこで、複利計算の回転期間をできるだけ細かく、多くしていったら運用額はどうなるのだろうか、という連続複利の問題意識を追いかけていくと、その計算の型は「たまたま」ネイピアがやろうとした「"1"をほんのちょっぴりずらした数を指数で累乗する」という計算とぴったり重なることになります。この偶然の符合によって、計算の世界だけに棲息しているネイピア数という数学上の大鉱脈が、この場所に自然露出の状態でひょっこり顔を出すことになり、道を歩っていて最初にそれを見つけたのがヤコブ・ベルヌーイだった、ということです。

ちなみに、任意の金利の連続複利を計算するものとして、次の式を作りましたが、


この式で金利計算という枠を取っぱらって、r を「−1」とおくと、


となって、「e」の逆数になります。上にネイピアは「1よりちょっぴり小さい」方の数で計算した、と述べましたが、ネイピアがやっていたのは、こちらの方の計算になります。



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posted by oto-suu 12/10/06 | TrackBack(0) | 数列 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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