
「自然対数とはなにか」ということは、要は「ネイピア数とはなにか」ということですが、ネイピア数がわかりにくいのは、それが純粋に計算の世界の中だけに住んでいる数で、他の重要な無理数のように、なにか具体的に思い浮かべることのできるイメージと結びつくものがないからです。

これがたとえば「円周率」であれば、円とその直径の比率、「黄金比」なら黄金長方形の辺の比率、「平方根」であれば、正方形の対角線の長さ、といった具合に、具体的に思い浮かべられる分かりやすいイメージを持っていますが、ネイピア数にはそういう具合のいいものがありません。かろうじてそれが現実世界の中の具体的な要素に引っ掛かっているのが、「金利」という、これもびっくりするような突拍子もないところなのです。
もともとネイピア数は、(また別の人が出てきましたが)ヤコブ・ベルヌーイという数学者が、金利の研究をしていた中から発見されたのが起源と言われています。また、先に対数の節で触れた、秋山仁先生の連載記事でも、このネイピア数は、「それを使うと金利の計算が便利にできる不思議な数」という形で紹介されていました。プロの数学者でも、そういう言い方ですから、知らない人に説明するときにそれ以上に適当な仕方というのはないのかもしれません。
ネイピア数と自然対数の面白いのは、そういうふうに現実世界との接点がほとんどない、超然とした、浮世離れした存在でありながら、そうであるままで、さまざまな実用的な分野で、要(かなめ)になるような重要な役割を受け持つところです。金利がらみということで、ファイナンスはもちろん、経済学においても非常に重要な役どころですし、自然対数の名のとおり、物理のような自然科学や、工学などの応用分野でも欠かせない存在になっています。まるで自分の家から一歩も外に出ないまま、電話一本で世界を好きなように操る黒幕のフィクサーのようです。
ネイピア数が実用的な分野でもそのように重要な意義を持っているのは、それが純粋な数学の中で根源的といっていいような重要性を持っているからですが、それが数学自体の中でもどれくらい特別な数であるか、ということに触れるために、ネイピア数に関するたいへん有名な、ひとつの数式を紹介します。
ある自然数を、ひとつづつ減らしながらすべて掛けていく計算を「階乗」といい、ビックリマーク(感嘆符)を使って次のように書く、という話を「フェルマーの小定理」のところで紹介しました。

この階乗の表記を使うと、ネイピア数「e」は、次のような規則でどこまでも無限に続く数列の項の和、つまり無限級数として表せることが知られています。

これはホントでしょうか? 頭のあたりを実際に計算して足してみましょう。

なんだか式のとおりにこれでもかとばかりにビックリがいっぱいの、ただただビックリの式ですが、この数式は、あとで「微分」を学ぶと、自分で導き出せるようになります。とっても楽しみですね。
<参考にさせていただいた資料>
e - Euler's number ( Math is fun.com )
The number e - History of Mathematics ( セント・アンドルーズ大学 )
Jacob Bernoulli ( Wikipedia )
e - Euler's number ( Math is fun.com )
The number e - History of Mathematics ( セント・アンドルーズ大学 )
Jacob Bernoulli ( Wikipedia )