ファイナンスの理論で純粋に理論的に金利について考えるとき、今日もらう100万円と1年たってからもらう100万円は、額面が同じでも価値が違うという面白い考え方をします。同じ100万円でも今日もらう100万円の方が価値が高く、1年後の方が安い、と考えます。
なぜそう考えるのか。ここのところの機微を、公認会計士の米井靖雄さんという方のサイトでたいへん分かりやすく説明していました。あなた自身が同じ100万円を今日もらえるのと、1年後にもらえるのと選べるとしたら、たぶんほとんどの人が今日すぐにもらえる方がいいと言うでしょう、ではそう考える理由はなにか。
理由には次のようなものが考えられます。
- 投資機会
- 損失リスク
今日すぐにもらえれば、わたしはそれを投資信託や銀行預金で運用して1年後にはもっと増やしている可能性があります。また、1年後にもらうことにして、それまでどこかに預けておけば、その間にネコババされたり、保管会社が倒産したりして約束どおり手に入らない可能性もあります。同じ現金でも現在と未来で価値が違う、というこの考え方を金銭の時間的価値といいます。
では、同じ100万円ならこんなふうに未来のものの方が安いとして、いくら割り増しだったら現在の同じ額の資金と釣り合うでしょうか?その差額を表現したものこそが金利に他ならない、というのがファイナンスの理論からみた金利のいちばん基本的な考え方です。現在の100万円は金利の利子率をかけて、適切に割り増しして膨らませたときに、はじめて現在の価値と釣り合います。つまり、金利というとなにかお金が増えてうれしいようですが、ほんとうは逆に単位あたりの価値が下がっていて、それを金利という詰め物で埋めているのです。
反対に、未来の100万円は、現在のいくらの額と釣り合うのかを考えると、それは未来の価値(将来価値)を金利の利子率で割り戻して額を減らした(単位あたりの価値をあげた)額になります。この計算をして、未来の価値を現時点でみた価値に直すことを割引計算といい、割引きの率を割引率といいます。
以上の内容から、「金利」と「割引率」は時間軸の逆の側からみた同じものであるといえます。
割引率の考え方は、個人や家計の資金計画でも知っておくと有用です。たとえば、今日の掛け金で未来の受給権を買う代表的な金融商品に年金がありますが、割引計算を考慮に入れずに額面の金額だけをみていると、(現在価値に揃えたときの)50万円分の受給権を100万円の投資額でわざわざ購入するといった判断ミスが容易に起こりうるからです。直接的に年金と銘打っていなくても、年金的な投資商品はたくさんあります。
もちろん企業が事業を計画したり、不動産の運用収益をみたりするときにも、この考え方は基本になります。また、道路や空港などの公共施設を作るときにも同じ考え方で税金を投入するかどうかを判断するので、営利事業ではない行政機関にもこの考え方は重要です。また、会計上でも、たとえば退職金制度のある組織では、未来に払う退職金の積み立て(引当金)を現在価値に割引計算したうえで、当期の決算に計上し収支を出す、といった形で、身の回りのお金を扱うすべてのところにこの考え方は深く入り込んで働いています。
毎期の退職給付費用は、退職時に見込まれる退職給付の総額について合理的な方法により各期の発生額を見積り、これを一定の割引率及び予想される退職時から現在までの期間に基づき現在価値額に割り引く方法で算出します。(あずさ監査法人:退職給付費用の考え方)
いちばん簡単には、現在価値は、投資運用やローン返済にとっての出発点としての元本や借入金であり、将来価値は、それぞれその運用額および総支払額という出口の状態と読み替えてもいいでしょう。