住宅ローンはもちろん、自動車ローンやクレジットで買い物をしたときの分割払い等、一般に借り入れの返済をするときは、最初にまとまった金額を一括で受けとって、それを何回かの返済回数に分けて小分けに返済していくという形態がふつうですね。このケースで今から実際の計算式を検証していきますが、その前に、それを設計するうえで前提になっている、いくつかの重要な原則(制度)について確認しておきます。これらの原則に配慮した形で実際のローンは設計されているので、金利計算は純粋な数学計算以上の、やっかいなものになってきます。
単利原則
ここまでみてきたように、金融商品に投資したり、金融機関に預金をして運用するときには複利の運用が基準になりますが、借りるときには逆に「単利」の適用が基準です。単利ということはどういうことかといえば、債務(借金)として残っている元金に掛けた利息を繰り入れてそれにさらに金利を掛けることはしないということを意味しています。「運用するときは複利で元金への繰り入れがあり、借りるときは単利で元金への繰り入れはしない」というこのことは、金利として得られた利息収入が誰のものかを考えると分かりやすいのではないかと思います。運用する場合には、所定の期間で獲得した利息収入は既に運用者のものになっていて、もとの元本とは区別がつきません。従ってそれを新たな元本として組み直して運用したいと希望するのは自然な考えです。一方、借りる場合には、借り入れをした対価として借り手が支払った利息は、貸出者の収入になるものなので、それを借り手に対する債務に組み入れて新たな元本とし、借金の額が勝手に膨らんでいく、というのは、契約の出発点としては無理があるでしょう、ということです。
ローン返済は(延滞時などの)例外ケースを除き単利計算で行う、というこの原則は法律でも定められていて、貸し手借り手の両者が契約で特に合意すれば複利を適用してもかまわないことになっていますが、われわれがが生活の中で接する多くのローンでは、通常この単利原則を尊重した形でローンが設計されています (追記参照)。
ただし、ここが理解しにくいところですが、ローンの計算は、この単利原則にもかかわらず、複利的な計算になります。この複利「的」な計算というのは、単利にもかかわらず「等差数列」にならず、「等比数列」「等比級数」を使用する計算になるということです。このようになるのは、利息の元金への繰り入れこそ行わないものの、分割返済によって元金が削られてその額が複利運用のときと同じように変動していくからです。のちほどその詳しい計算方法を確認します。
アドオン方式と残債方式
上記のように分割返済で借り入れを返済していくときに、金利計算でもっとも簡単なのは、借金の額(債務額)全体に金利を掛けて、それを返済回数で羊羹を切るように均等割りにしてしまうことです。この考え方を金融の業界用語で「アドオン方式」といいます。ですが、返す側の身にとっては、それで計算はたしかに楽かもしれないけれど、ちょっと待ってよ、と一言いいたくなります。その計算だと元金にまるまる金利が掛かってしまっているので、途中で頑張って返済していく意味がありません。借金全額をぎりぎりまで使って、最後にまとめて返しても同じです。逆にいえば、途中でせっせと返しているのに金利をとりすぎじゃないか、ということです。
そこで途中返済方式で借り手貸し手の双方にとって納得のいく金利の掛け方とは、残っている借金残額(残債務)に毎回こまめに計算し直して金利を掛けていく方式です。これを「残債方式」といい、同じくローンを設計するときの基本的な原則になっています。
この原則に基づけば、アドオン方式でもとの元金全体にまるまる金利をかけるよりも利息支払いが少なくなるので、借り手にとってはうれしいことですが、代わりにやはり計算ははるかに面倒なものになります。
利息優先
ローンを分割返済していくとき、毎期の返済額は通常「利息+元金」で構成されています。このとき、両方の割合をどう取るかは大きな意味があります。上記の単利原則から、元金が残っている限りそれに利息がつくが利息にはさらに利息はかからないとすれば、元金の返済を優先すれば元金が早く減って金利支払いがその分少なくなり、逆にすれば支払いは多くなります。これについては、「利息>元金」の順で利息の返済を優先することが原則となっていて、これも法律で定められています。すなわち返済金の内訳を構成する際は、まず利息分を詰め込めるだけ詰め込んで、残った分で元金を返済するという考え方です。上に述べたことから、この決まりは貸し手側に有利なものといえます。なぜ法律がこういう順位を定めているのか、理由はよく分かりませんでしたが、お金を貸す側としては、借り手に借金を踏み倒されて元金ごと失うリスクをとって、利息収入を得ることを目的に自己資金を貸しに出していますので、その意を汲んで借り手はまずは貸し手の目的である利息を先に払いましょう、ということなのかもしれません。
さて、以上の原則に配慮して、ローンの分割返済を設計すると、どういう姿になるかを次回からみていきます。ローンの返済で用いられる代表的な返済方式に、「元金均等払い」と「元利均等払い」の二つがあります。まずは両者がどのようなもので、どう違うかを確認しましょう。
<追記1:「単利原則」の意味>
上記の「単利原則」において、「貸す」と「借りる」は表裏の関係ですので一方が複利で一方が単利というのは平仄(ひょうそく)が合わない感じがします。たとえば「わたしが銀行に預金し複利で運用する」とは、「わたしが銀行に自分の資金を貸し出して銀行はそれを複利の契約で借りている」というのと同じです。このことは、銀行はわたしからの借り入れにおいて、わたしに支払った利子を借り入れの元金に組み入れ、借り入れ額を増やす契約を単位期間ごとに自動更新している、それを許容していることを意味します。銀行が単利原則から外れたそのような契約を所定のものにしているのは、銀行は小口の預金者からたくさん資金を集めて(企業に貸し出しする等)運用するのが商売だからであり、そこからすれば、われわれが一般に「複利の運用」と呼んでいるものは、「単利が原則の借り入れ」の中のかなり特殊な形態という位置づけになるのではないかと考えられます。これは上記の話から自分で読みとった理解ですが、どうでしょうか?
<追記2:借金が「雪だるま」式に増える?>
ローンの場合、単利の適用が出発点であるということは、俗に借金の恐ろしさを警告するのに「雪だるま式」に増えるという表現をするところからすれば意外に感じられます。高利・長期の契約の場合、単利でも相当な金利をとられるのはたしかですが、単利の適用で元金への繰り入れが行われないのであれば、「雪だるま」式に増えるという表現は、厳密には正しくないはずです。しかし、返済を延滞すれば、それらのローンでも契約の定めに基づいて複利の適用がはじまりますし、これは確認しきれませんでしたが、一部のカードローンでは、契約約款にあらかじめうたうことで、はじめから複利を適用するものもあるようです。また、いわゆるヤミ金融では、最初から複利の適用がふつうとのことで、これらの場合には、そのままにしておくと、金利が金利を生んで、文字通り「雪だるま」式に借金が膨れ上がることになります。