隣接三項漸化式を等比数列化する考え方は上のようなものでした。特性方程式の解となる、この二つの変数 x と y は、フィボナッチ数列では二つの黄金比であり、また、両者は互いに入れ換えることができるのでした。つまり、フィボナッチ数列では、黄金比のどちらかが等比数列の「公比」ということになります。この二つの変数を補って作った仮想的な二項が、ほんとうに等比数列になっているのかを、フィボナッチ数列で確認してみましょう。
フィボナッチ数列について、上の仮想項をつくり、前後の比をとってくらべてみます。確かに y を公比とする等比数列になっていることが確認できます。次は変数をりゃんこに入れ換えてみましょう。
今度は入れ替わりに x が公比になりました。これもOKです。これで、隣接三項漸化式の項の差分をとって解くという解法の正当性が、だいぶん実感をもって確認できましたし、また、フィボナッチ数列の場合には、この項と項の間で、「黄金比を公比とする等比数列」という豪華な数列が、裏方役にまわってせっせと走り回っているのだな、ということも感じとれます。
前回の一般項の計算もそうでしたが、こんなふうに、黄金比という無理数の海の中から、計算の化学反応を通してフィボナッチ数列の整数が結晶化して生えてくる様子には、ちょっと感動的なものがあります。
さて、これで念願かなってフィボナッチ数列の一般項をゲットするところまで到達し、お腹一杯の幸せな気分ですが、そのあまりに最初の目標を落っことして失念してはいけません。一般項を導くのはあくまで手段で、はじめの大目標は「フィボナッチ数列の隣接項の比はなぜ黄金比に収束するのか」を究明する、というものでした。とはいえ、フィボナッチ数列と黄金比の近親関係は、こうしてかなり深いところまで汲み取りましたので、もうトンネルの最後の出口の間近まで来ていることは、空気の匂いからもありありと感じられます。あとは最後の扉をコツコツと叩いて、ドアの向こうに足を踏み入れるだけです。