「漸化式」というと、いかにも難しげな印象ですが、英語の相当する用語で 「recurrence relation (繰り返される関係)」 と聞くと、比較的わかりやすい感じがします。ここまで学んだ「等差数列」と「等比数列」を例に、この漸化式と一般項を比べてみましょう。
一般項の方は初項との関係で、漸化式は隣合う項との関係で、それぞれ項が定義されているのが確認できると思います。
両者を見比べると、「差が一定」「比率が一定」という数列の概念的な性質は、漸化式の方にストレートに表現されていて、こちらの方が簡単で分かりやすい式になっているのが分かります。一方、それに対応する一般項を導き出すのは、ちょっとひとひねりした加工が必要でした。それに応じて、一般項の方は、それが「等差」「等比」等の性質を持つことは「パッと見」には見えにくくなっています。
たとえで表現すれば、漸化式は、ある目標点を目指すのに、一歩一歩地道に階段を上っていく動きに相当します。下にうつむいて自分の足元だけははっきり見えていますが、はるか先や全体の様子は視野の外です。それに対して、一般項は、はじめの地点にどっかと砲台を据え、顔を見上げて最終目標をいきなり狙い当てようとする行為に似ています。途中の過程は全部スッ飛ばしますので、効率はめっぽういいですが、最初に精密で難しい角度計算をして、微妙な加減をよく調整しておかないと的にはあたりません。一方、漸化式の方は、亀のように一歩一歩の歩みで効率こそ悪いですが、個々の動きはずっと単調・単純で、あまり難しいことは考えずにすみます。
「漸化式を解く」 とは
このように、同じ数列を表現するふたつの方式である漸化式と一般項は、通常、隣接項との関係を定義しているだけの漸化式の方がより簡単で、一般項の方が複雑な式になります。また、両者は同じ数列の別の表現なので、相互を変換して橋渡しすることができます。この「項同士の関係を表す漸化式から、項共通の規則性である一般項を導き出す作業」 を 「漸化式を解く」 といいます。受験数学で悩まされた方はうっすらと記憶があると思いますが、この「漸化式を解く」問題は、(数学が苦手なひとにとっては)非常に難関で、逆にいえば、ひねった問題を作って受験生を振り落とすのに都合のいい「受験数学の華」ともいえる箇所のひとつです。見かけはごくシンプルなはずの漸化式をエッチラオッチラ解いてみたら、とんでもない複雑怪奇な一般項が目の前に聳(そび)え立って、これがホントに同じ数列なの!?と唖然とする、ということもまれではありません。
この場所は、受験対策が主目的ではありませんので、そうした凝った問題を解くこと自体を主眼にはしませんが、話の流れで必要な部分に絞って、基本的な考え方といくつかの実例にのちほど取り組んでみたいと思います。