【数の構成】「ツェラーの公式」を読み解くV

「ツェラーの公式 (Zeller's congruence)」の読み解きの最終回です。

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ツェラーの公式


「月」の分析

さて、最後は残った「月」の分析です。「月」は変則的な2月を除いても、30日の月と31日の月が混在してデコボコしているので、月のデータをまたいだ時に剰余のバトンをうまく橋渡しするのが容易でないことは想像がつきますし、実際、式をみると、いきなり「26」などという謎の係数がでています。「26」ってなんでしょうか?

最初に、それぞれに月の日数の並びを再確認しましょう。ツェラーの公式用に3月〜14月を並び替えて各月の日数をプロットしたのが以下の図です。

ツェラーの公式の検証


ここから、いくつかの重要な点を読みとることができます。まず、30日の月は、「西向く士(さむらい)」で「4」「6」「9」「11」月です。また、各月の mod 7 に対する剰余は、「当月剰余」の段のように「2」か「3」になりますが、計算式の中で、月を受けとって与えなければならない剰余は、一つ後ろにずれた「前月剰余」になります。なぜなら、ある月の生み出す剰余が影響するのは当月ではなくその翌月になるからで、これは閏年の曜日のずれが当年ではなくて翌年に現れるのと同じです。また、いちばん変則的でおまけに閏年の調整日まである「14月(=2月)」は、最後尾に並び替えてありますので、月が変わるときに年も切り換わってゼロクリアになりますから、2月の影響は無視してかまわない、ということもここから読みとれます。

以上をおさえた上で、上の図をさらによく眺めると、はじめとおわりの3月と2月をカットした残りの10カ月の剰余に、「2-3-2-3-3という同じパターンがコピーで現れていることが分かります。実は、この10カ月の剰余の合計が「26」(1カ月あたりの平均値が「2.6」)で、これが公式が使っている係数です。

ここのところを、もっと突っ込んで調べてみましょう。今、1からはじまる整数の列にこの係数の「2.6」を掛け、その切捨て整数値について前後の差分をとってみることにします。すると、うまい具合に先ほどの「2-3-2-3-3」のパターンが繰り返し現れることが確認できます。

ツェラーの公式の検証
ツェラーの公式の検証

また、この図から a の値を前後にスライドさせてやると、この「2-3-2-3-3」のパターンもブロックごと動かすことができる、ということも明らかに分かります。では、どちらにどれだけスライドさせればいいでしょうか?最初の実際の月日数の図でみると、「2-3-2-3-3」のブロックは5月からはじまっています(「前月剰余」の段です)。それに対して「2.6」を単純に掛け算した下の図でみると、「a=6」のところからはじまっていますから、「5」を受けたときに「6」として計算する、すなわち「a+1」を与えてやれば、実際の月の動きと合わせられることになります(緑でマークした「15.6」という数値の位置を比較してみてください)。こうすることで3月の剰余を受けとる4月についても、ブロックのお尻のところが引っかかってちょうど「3」になることもわかります。

ツェラーの公式の検証


これで「<月>のデータを入れてやると<前月剰余>の値を吐き出す」歯車部品の調整が完成しました。

ツェラーの公式の検証


では、他と同じように他の項を固めてここだけを動かしたデータをみてみましょう。2012年はちょうど閏年で2月29日がありますので、その前後の挙動も分かるようにしてあります。

ツェラーの公式の検証

「2.6」の係数の作り出す増加分が剰余=曜日の進みに反映していること、変則的な2月の剰余の影響は、年がクリアされることで消えていること等、上に述べたことが確認できると思います。


以上は、式の作りから逆にたどった分析ですが、この「月」の部分のもっと洗練された、数学らしい証明は、川崎医療福祉大学の近藤芳朗先生が 「暦の数理」 という資料で公開されています。暦にまつわる歴史的な背景などもまとまっていて、勉強になりますので、あわせてごらんください。


ツェラーの公式に関する解説は以上です。ちょっとホネでしたが、とても楽しかったですね。先に「9」の性質を使い回す「9去法」を取り上げましたが、「9去法」が「9という数のエキスパート」だとすれば、曜日の「7」を極めた「ツェラーの公式」は、さしずめ「7のエキスパート」というところかもしれません。




posted by oto-suu 11/11/05 | TrackBack(0) | 数の構成 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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