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2011年10月01日

【数の構成】9の魔法と9去法

合同式の公式を学んだ中で、倍数の判定法について取り上げましたが、そこで3の倍数についてみたことは9の倍数にもそのままあてはまります。すなわち、桁の数を足し合わせた数が9で割り切れる数は、元の数も9で割り切れますし、両者の余りの数は割り切れるゼロの時以外でも常に一致します。

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子どもの頃、掛け算の九九を暗記したときに、"9"の段はとっても不思議な感じがしたのを覚えている方も多いと思います。"9"の段は結果の数同士を足すと必ず9になりますし、「×5」と「×6」を境に数字が入れ代わって鏡写しに対称になります。

掛け算の九九の9の段

とはいえ、九九の2桁の範囲で9の倍数を作ろうとすると、上の理屈からいってこうでしかありえないことになります。"3"の段(3の倍数)であれば、十の位が「1」なり「2」なりだったときに、足した数が3で割り切れるというルールの中で何通りのパターンがまだとれますが、9で割り切れる(=和を9にする)ようにしようと思ったら、十の位が「8」なら「1」、「1」なら「8」という形で常に相手方の一通りしかありません。「3」は10進法の基数の10に対して充分小さく、その箱の中でかなりの身動きがとれますが、「9」はほんの少し小さいだけなので、自分自身しか入らないからです。そこで、こういう余裕のない、きゅうくつな形にしかなりえないのです。

9の倍数のこの特異な性格は、循環小数でも発揮されています。この節の最初で、0.9999.... は1と同じ数だという話がありました。感覚的にはこれはどうもおかしいような気がします。「1よりちょっと小さい数」のようにどうしても思えます。

今、仮に0.9999....は「1よりちょっと小さい数」だとします。ちょっと小さいということは、その間に小さいながら「すき間」があるはずで、そのすき間は 0.9999...を掛け算すると倍々になって広がり、目に見えるものにまで増してくるはずです。しかし実際に掛け算してみると、どれだけ掛けても小数点以下は常に9999...のままでまったく変わらず、「裂け目」はいっこうに開きません。これは、上の掛け算の九九で桁の和が9になる性質が、ちょうどファスナーの歯のようにきれいに噛み合わさることで実現しています。いくつか適当な数を掛けてみましょう。

0.9999...の掛け算


「九去法」と「数字根」

9のこうした性格を利用したヨーロッパの検算法に「9去法(casting out nines)」というものがあります。9去法を行うには、まず「数字根(digital root)」というものを作ります。なんだか難しそうですが、検算は簡単にできないといけないものなので、たいしたことはありません。数字根とは、ある数の桁の数を足し、その和の桁の数もまた足して、というふうに繰り返して最後に残った1桁の数のことです(もともとこの数は「数秘術」という占いに使う数でした)。

数字根

「数字根」の数と、元の数、それからそれを捏ね上げていく途中の数は、すべて9で割った余りが等しくなります。つまり9の法において「合同」です。なぜそうなのかは、上に述べた倍数判定の考え方から明らかで、証明は不要でしょう。

また、ここから数字根に達するもうひとつの、そしてさらに簡単なやり方が取り出せます。それは桁の和の中から「9」を取り去っていくという方法です。この方法を使うと、数字根がさらに手際よく、素早く作れます。

数字根

桁の数の中に足して9になるものがあれば消し飛ばして残りだけをどんどん足していきます。こうして作った最後の1桁の数は、上で桁の数を足し込みながら作った値と同じになります。

「9去法」は、この2番目の「9を消し去る」手法で作った数字根を比較して元の計算の正誤を検算する方法で、演算の各項の数字根を作ってそれを比べます。9去法は、整数の足し算、引き算、掛け算と余り付き割り算に使えます。なぜそうなるのかは、剰余演算の道具がなければちょっと凝ったやり方で説明しなければなりませんが、知っていれば、「mod 9」の余りを取り回す合同式の演算公式そのものです。

9去法

引き算の場合には、数字根を作って取った差がマイナスの値になってしまうこともあります。この場合は、その数と9の和が計算結果の数字根と一致していればチェックOKと教えますが、これも負の値の合同式の考え方そのものです。

9去法

9去法はこのように数字根の一致で計算の正誤を判定しますが、当然ながら間違った計算でもたまたま数字根が一致してしまうことはあるので、完全に判定できるわけではありません。9去法と同じ原理は3を法にとった3去法にも適用できますが、なぜ使われるのが3去法ではなくて9去法なのかという理由もここから推察できます。法が3だと、余りのパターンは、0、1、2の3通りしかないので、誤判定の確率がそれだけ高くなって、検算にあまり役に立ちませんし、数字根に対しては合同ではあってもそのものではないので、手間の方はもうワンステップ余計にかかるからです。

9去法は日本ではあまり知られていませんが、簡単で便利な検算法として推奨する向きもあります。入試や資格試験はもちろん、仕事をしている中でも、手元になにも計算機がない状況で計算を検算したいというニーズはけっこうありますので、覚えておくと重宝するかもしれません。


<参考にさせていただいた資料>
  数字根 (Wikipedia)



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posted by oto-suu at 15:01 | 数の構成






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