単位分数の分子を分母で実際に割り算してみると、1/4 や 1/20 は途中で割り切れて有限小数になり、1/3 や 1/11 は循環節が繰り返されて無限小数になります。例をいろいろ広げてあたってみると、分母の約数が「2」と「5」の組み合わせで構成されている時(4、20、16、など)は有限小数になり、それ以外の約数が部品に混ざっている時(3、6、7、13、15、など)は循環小数になることが分かります。

逆に小数の側からみてみると、ここまで確認してきたように、有限小数は、小数の部分を、それを括れるだけの10の累乗で割ることで分数に変換できます。

両者を見比べると、このふたつの条件は同じものであることが理解できます。単位数である10の約数は2と5ですので、2と5の部品だけからできている分母は、足りない部分を通分して補ってやることで、必ず10の累乗の分母に変えることができます。逆にそれ以外の数が不純物で混じっている場合は、たとえ2と5が他の部品で含まれていたとしても、通分によって純粋な10の累乗の分母に変換することはできません。

純循環小数と混循環小数
一方、これを循環小数の側からみれば、上にあげた1/6のようなケースは、10の累乗の有限小数の線上に乗らないだけでなく、循環小数でありながら、前回みたような9999...の分母にもなりません。これは、分母に2や5の有限小数の部品が混入していて、「9999...型」の循環小数との合成品(掛け算)になっているからです。2と5以外の素数が混じっている数がどうあがいても10の累乗になれないのと同じように、2と5が入っている数は、どうひっくり返ろうが(明らかに)9999...にはなりません。
つまり、全体を整理すると、有理数の中の小数には、(a)分母が2と5の組み合わせだけからなる有限小数、(b)2と5以外の部品(素数)の組み合わせでできた、2と5を含まない「純粋な」循環小数、(c)両者の間に位置し、混成の部品でできた「複合型」の循環小数、という3パターンがあることになります。「混成」の分母からなる小数は、2と5以外の数が混ざっているので、有限小数の形態は保てずに循環小数の側に籍を置いていますが、かといって「生粋の」循環小数のような、すっきりした特徴もありません。絵の具を混ぜたような、どっちつかずのあいまいな姿になっています。
この(b)と(c)のような「純粋な」循環小数とそうでないものとの違いを、「純・循環小数」、「混・循環小数」と呼び分けることがあります。「純循環小数」では、小数点のすぐ隣から循環節がはじまり小数部分のすべてが循環するのに対して、複合タイプの「混循環小数」では、小数点以下に循環しない部分ができ、すぐに循環節が始まらないのが外観上のちがいです。上の変換式をみると、2と5を外した素数だけで固めた純循環小数のケースとちがって、循環節がずれている分、辺々を引いた差が「10の累乗−1」というきれいな形になっておらず、その「ずれ」の分が、分数の分母において、ちょうど有限小数部品の余分な2か5に化けていることが分かります。

以上の見通しを得たうえで、最後に(有限小数の影響を取り除いた)本来の循環小数、純循環小数にもう一度戻ることにします。純循環小数のこのケースでは、分子を分母で実際に割り算すると、途中で割り切れて終了する有限小数とはちがって、余りが出続けることで、無限に計算が続く無限小数になりますが、この余り(剰余)は割り算の定義上、必ず割る数の分母より小さな数になります(大きければもう一回分割れます)。従って、割り算をどんどん続けていくと、余りのパターンは分母の数より以下の範囲でどこかで出尽くして、必ずもとに戻ってくる地点があることになります。これが、整数の比である有理数(分数)に由来する無限小数が必ず循環小数である理由です。さらにここから、循環小数の循環節の長さは、分母の数(の−1)が常に上限になり、それより短くなることはあっても長くなることはない、という性質があることもわかります。これを前回の内容とあわせると、分母は自分自身を下回る範囲の長さでオール9の数を作れることになりますが、下の単位分数の例でみると、余りが元の「1」に戻ってくるということは、その桁長の範囲の10の累乗から元の数の1を取り除いた数(つまり9999...の数)が、ちょうど割る数の分母とその答え(循環節)の倍数になる、という形で二つの話がつながっていることが確認できます。

循環小数と無理数〜円周率の「無理性」
ところで、このことは、逆にいつまでいっても循環の出てこなさそうな、ある無限小数の数があった時に、それが「循環小数ではなく」「分数で表せず」「有理数でない」ことの証明にはなりません。たとえば代表的なものとして、円周率がそうです。よく新聞などで、研究者が円周率の計算競争をして何兆ケタもの記録を作った、などという記事が話題になります。しかし、ひょっとしたら、10兆ケタめでやっと循環する、とんでもなく長大な循環小数ということだって、ないとは限りません。円周率がどこまでいっても循環にならない無理数であることを「円周率の無理性」といいますが、この証明は簡単ではありません。円周率 π が分数では書けない無理数であることは、紀元前から予想はされていましたが、実際に証明されたのは、18世紀のことだそうです。これも2000年間くらい証明できなかったことになります。
さて、ここまでの話をまとめると、有理数の分数をり割算した小数において、有限小数か循環小数かの様態は、「分数の分母に2と5の数がどう使われているか」が鍵になっていることが確認できました。しかしながら、よくよく考えてみると、これはわれわれの扱っている数が10を基数にした10進法であるからで、条件はそこに依存していることになります。では、10進法以外の数で仮に循環小数というものがあったとしたら、その条件は10進法のものとは違ってくるのでしょうか?―― 答えは「イエス」です。10進法以外の数え方でも同じように循環小数を考えることができ、その条件は10進法のときとはちがいます。そして、このことはわれわれの日常の中での数の扱いにも思わぬ影響を与えることがあります。なぜなら、われわれが現代生活で大きな頼りにしているコンピュータは、10進法とは別の2進法で動いているからです。
そこで、このことを理解するために、まず「2進法」がどんなものか、それを次にみていくことにしましょう。