【対数】相乗平均(幾何平均)の使い方

対数と直接の関係はありませんが、その中ででてきた累乗根と関連の深い内容として、最後に相乗平均(または幾何平均)という考え方をとりあげます。

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幾何平均

相乗平均とは掛け算した積の平均で、対象データを乗じた値の累乗根で定義されます。これに対し、一般に平均と呼ばれる和の平均相加平均といいます。相乗平均は幾何平均(GM:Geometric Mean)ともいい、これに対して相加平均は算術平均(AM:Arithmetic Mean)ともいいます。


なぜ「幾何」平均?

相乗平均がなぜ「幾何」の平均と呼ばれるのかについては、以前掛け算と幾何の関係について書いた際にも触れました。ここでは参考として以下の図も提示しておきます。この図は、「面積」と「体積」について、どのように均等に辺を割り当てれば、もとと同じ面積体積が作れるかを示したもので、それぞれ二乗根(平方根)、三乗根(立方根)の幾何平均となります。

幾何平均のイメージ


幾何平均はどのようなときに使うのか?

幾何平均は、掛け算、あるいは比率で変化していくような動きについて、平均の変化率をみたいときに主に使用します。このようなケースでは、変化率をピックアップしてきて単純に和の平均をとっても、平均の動向をとらえたことにはなりません。その代表的な分野が、資金が運用利率で増えたり減ったりしていく投資です。

この点について、コンサルティング会社のグロービスという会社で、「<カイゼン!思考力>その平均でいいの?算術平均の誤用」というぴったりの記事がありましたので一部を紹介します。

「この投資信託だけど、初年度だった5年前は年15%、4年前は10%、3年前は▲20%、2年前は10%、去年も10%の利回りだったとか。平均すると、(1.15+1.1+0.8+1.1+1.1)÷5=1.05だから、5%の利回りか。5%の利回りなら、10年も預けておくと、1.05^10=1.63となるから、けっこうなリターンだな。この低金利の時代、他に良い投資先もないからこの投資信託にするかな」(略)

さて、ケースの例では、将来のリターンを複利計算で見積もっている点はいいのですが、過去5年間の年平均利回りを求める際に算術平均で5%としてしまった点がミスと言えます。実際の販売の場などでもしばしばこうした説明がされることがあるようですが、ここで算術平均を用いるのは適切ではありません。数字で確認してみましょう。もし、この投資信託の最初の価格が1だとすると、現在の価格はどうなるでしょうか。計算してみると、

1×1.15×1.1×0.8×1.1×1.1=1.2245

となります。ここでは、過去の年間利回りの平均を求めるためには、

1.2245^(1/5)=1.041 

つまり、年平均の利回りは4.1%という計算が必要になります。これはいわゆる複利の考え方であり、この計算方法を幾何平均と言います。複利の金融商品の利回りや、年平均成長率(CAGR:Compound Average Growth Rate)では、この幾何平均の考え方を用いることが必須です。どんどん掛け合わせていく率(レート)の平均は、掛け算の平均である幾何平均を用いるということです。

ここで「^」とあるのは、平文(プレーンテキスト)で累乗を表すときの記号で、表計算ソフトでもPOWER関数と同等の計算を意味します。算術平均としてサンプル数で直接割り算せずに、累乗根の別表現である分数の指数でちゃんと累乗されていますね。

ここにもあるように、同じサンプルにおいて相加平均である算術平均と相乗平均の幾何平均を比べると、算術平均の方が必ず値が大きくなるという性質があります。ですので、このような時にまちがって単純平均(相加平均)を使ってしまうと、本来期待できる平均利回りより高い値を見てしまうことになり、運用を考える際の判断を誤ってしまうことにもなりかねません。

幾何平均は、同じ理由から、経済状況の分析でもよく使われます。たとえば物価変動の動向や、GDPの成長率といった項目です。

また、対数という観点からみると、累乗根で平均をとる幾何平均は、必然的にその対数の相加平均ということになります(対数の足し算は真数の掛け算で、分数の指数=累乗根だからです)。そのため、先に対数の意義について説明した回で、対数でカウントする単位があると述べましたが、それらの単位では、複数の測定値をもってきてふつうに単純平均をとると、それは自動的に幾何平均になります。たとえばそこで挙げたように、音量を測る「dB(デシベル)」は対数の単位ですが、ある地域の騒音の状況を調べようとして複数の測定値を集めて平均をとると、それは幾何平均になっているわけです。このような性質から、幾何平均は対数平均と呼ばれることもあります。

相乗平均、幾何平均、対数平均と名前がいくつもあってやっかいですが、みな同じものです。


さて、対数のコーナーはひとまずこれで終わりです。対数については、もうひとつ「自然対数」という重要な概念がありますが、これはあとで数列を取り上げるときに、その中で扱う予定です。


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posted by oto-suu 11/04/16 | TrackBack(0) | 対数 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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