対数は「指数」(exponent)と深い関係があります。指数とはなんでしたでしょうか。「指数」は、数を累乗するときに、元の数の右肩に載っているあの小さな数のことです。同じ数を繰り返し掛ける(累乗する)ときの、掛ける回数を表しています。
対数(logarithm)は、実はこの指数のふたつ名、別名です。つまり要は指数と同じです。同じならそれでいいじゃないか、どうして別の呼び名があるのか、まぎらわしい――当然そうなります。なぜわざわざ別の名前を持たせているのでしょうか。
その理由は、この指数というものを、刺し身のツマみたいな扱いから主役に格上げし、それ自体をクローズアップして、もっと深く研究するためです。そのために書き方も、元の数の右肩に載ったままでは小さすぎてあまりにも目立たないので、単体の数値として取り出して、舞台の真ん中に出てきてもらい、そこでソロで唄ってもらいます。しかしたとえば2の3乗の「3」を単独で取り出しても、ただの数と同じで、「累乗の回数」を示す数であることが分からなくなってしまいますから、その性格が計算式の中で消えないように、専用の表書き、荷札を設けて、なんの数を累乗したものなのか、いっしょに書き込んでおきます。それが「ログ何々」で、この考え方は、三角比のサインコサインの表記のときと同じです。そしてこの、「専用の名札をつけて単独表記された指数」を「対数」という特別な名で呼んでいるわけです。将棋でいえば、元の「歩」と同じだけれどもパワーアップしてはるかに強力になった「と金」みたいなもの、といってもいいかもしれません。
対数は指数と同じもので、指数を主役に格上げして単独表記したものが対数である――ここのところをしっかり押さえておきましょう。
では、指数をこのように取り出して、専用の名前までもつけてあげて、いっしょうけんめい研究すると、なにがいいのでしょうか。それがただの酔狂ではなくて、実際に数学のみならず科学全体にとっても大躍進といえるくらいのたいへんなご利益があったといわれています。特に電子計算機がなくて、すべて手書きの計算でやるしかなかった昔の研究活動では、対数は巨大な数の計算を簡単にするうえで、絶大な効果があり、そこから熱心に研究されたそうです。対数の基本をみていく中で、そのあたりの事情もおいおい見えてくるものと思います。
前振りはこのくらいにして、次回で実際に、その指数を単独で取り出した、専用の表記をどう行うのか、具体的なやり方をみていきましょう。